早稲田大学教授でフランス文学者の堀江敏幸さんは、作家としては「理詰め」の作品を書かれる方との印象を強く持っていました。「言葉あまりて心足らず」という言葉が浮かんでしまうほどで、少々敬遠気味だったのですが、中年男のイクメン生活を描いた『なずな』は、「読んでおもしろい小説」に仕上がっています。「理詰め」を感じさせないほど、こなれているということなのでしょう。 上位にランクした『海炭市叙景』も『兵士はどうやってグラモフォンを修理するか』も、心に響く秀作です。1.なずな(堀江敏幸)
生後2ヶ月の弟夫婦の娘「なずな」を預かった、主人公の数週間の「イクメン生活」を丁寧に描くことによって、「かけがえのない人生」に思いを馳せる所まで読者を誘ってくれる作品でした。「まっさらで汚れるしかないものに対しては、悪い汚れよりもよい汚れをつけてやったほうがいい」の言葉の意味を、主人公と一緒に考えさせられてしまうのです。なにより、赤ちゃんの「なずな」の描写が秀逸です。
2.海炭市叙景(佐藤泰志)
41歳で自殺した悲運の作家の遺作は、故郷をモデルにした北国の「海炭市」に暮らす人々の絶望を鮮やかに切り取りながら、故郷への深い愛情を感じさせてくれる奇跡的な作品でした。後に「バブル」と言われた時代に、煌びやかな都会からの恩恵の訪れを待ち焦がれながら衰退していった地方都市の悲哀には、自分の故郷が重なってきます。それと、「何かに取り残されてしまいそう」という焦燥感も・・。
41歳で自殺した悲運の作家の遺作は、故郷をモデルにした北国の「海炭市」に暮らす人々の絶望を鮮やかに切り取りながら、故郷への深い愛情を感じさせてくれる奇跡的な作品でした。後に「バブル」と言われた時代に、煌びやかな都会からの恩恵の訪れを待ち焦がれながら衰退していった地方都市の悲哀には、自分の故郷が重なってきます。それと、「何かに取り残されてしまいそう」という焦燥感も・・。
3.兵士はどうやってグラモフォンを修理するか(サーシャ・スタニシチ)
現ボスニア・ヘルツェゴヴィナに生まれ育ち、祖父から物語の力を学んだ少年が綴ることになったのは、故郷が内戦に呑み込まれていく過程でした。家族とともに国外に脱出し、避難所で知り合った少女アシーナに届くはずもない手紙を書き続けた少年は、後に祖国を訪れて、自分が書き続けた物語と現実との落差に茫然とします・・。「文学」が「悲惨な現実」に抵抗できるものかという、根源的な問いに答えはあるのでしょうか・・。
現ボスニア・ヘルツェゴヴィナに生まれ育ち、祖父から物語の力を学んだ少年が綴ることになったのは、故郷が内戦に呑み込まれていく過程でした。家族とともに国外に脱出し、避難所で知り合った少女アシーナに届くはずもない手紙を書き続けた少年は、後に祖国を訪れて、自分が書き続けた物語と現実との落差に茫然とします・・。「文学」が「悲惨な現実」に抵抗できるものかという、根源的な問いに答えはあるのでしょうか・・。
【その他今月読んだ本】
・蒼路の旅人 (上橋菜穂子)
・七月の暗殺者(ゴードン・スティーヴンズ)
・忘れられた花園(ケイト・モートン)
・天翔る少女(ロバート・A.ハインライン )
・横濱 唐人お吉異聞(山崎洋子)
・魔女の刻 2.メイフェア家の魔女たち(アン・ライス)
・魔女の刻 3.魔性の棲む家(アン・ライス)
・魔女の刻 4.悪魔の花嫁(アン・ライス)
・キス(キャスリン・ハリソン)
・ヴァレンタインズ(オラフ・オラフソン)
・人質の朗読会(小川洋子)
・ブラックライト(スティーヴン・ハンター)
・脱走山脈(トマス.W.ヤング)
・統ばる島(池上永一)
・人の道御三神といろはにブロガーズ(笙野頼子)
・花桃実桃(中島京子)
・穴掘り公爵(ミック・ジャクソン)
・満州国演義6 大地の牙(船戸与一)
・トロイメライ(池上永一)
・陰陽師~醍醐ノ巻(夢枕獏)
・蒼路の旅人 (上橋菜穂子)
・七月の暗殺者(ゴードン・スティーヴンズ)
・忘れられた花園(ケイト・モートン)
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・横濱 唐人お吉異聞(山崎洋子)
・魔女の刻 2.メイフェア家の魔女たち(アン・ライス)
・魔女の刻 3.魔性の棲む家(アン・ライス)
・魔女の刻 4.悪魔の花嫁(アン・ライス)
・キス(キャスリン・ハリソン)
・ヴァレンタインズ(オラフ・オラフソン)
・人質の朗読会(小川洋子)
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・人の道御三神といろはにブロガーズ(笙野頼子)
・花桃実桃(中島京子)
・穴掘り公爵(ミック・ジャクソン)
・満州国演義6 大地の牙(船戸与一)
・トロイメライ(池上永一)
・陰陽師~醍醐ノ巻(夢枕獏)
2011/7/31記