りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

お順(諸田玲子)

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勝海舟の妹と五人の男」と副題の通り、勝海舟の妹で佐久間象山の妻となった女性・お順を主人公として、江戸末期から幕末、明治を女性の視点から描いた作品なのですが、主役でも観察者でもない「歴史の脇役」の目から、歴史のダイナミズムを捉えることは難しいですね。

「五人の男」の性格は、各章のタイトルに要約されています。

「小吉の放蕩」:勝小吉。勝海舟(麟太郎)とお順の父親
早々と引退して息子に家督を譲り、『夢酔独言』という楽しい自伝を遺した小吉は放蕩者で、破天荒なエピソードがたくさんあるのですが、旗本家に養子に入りながら生涯を無役で終えた失意の裏返しなのかもしれません。でも、お順の強い意志は父親譲りだったようです。

「虎之助の野暮」:島田虎之助。兄が通った道場の師範代で、お順の初恋の相手
15歳も年上の相手ながら、幼い頃に出会った瞬間から、お順は恋に落ちてしまったようです。年頃になったお順は、半ば強引に許婚となるのですが、肺病で・・。お順は生涯、病死した初恋の男性の面影を追ってしまったのでしょうか。

「象山の自惚れ」:佐久間象山。お順の夫
当時の洋学の第一人者だった象山は20歳以上も年上の相手で、自信家で野心家で嫌なヤツ。お順が嫁いだのは「女の意地」?象山との間に子は生まれず、象山が京で暗殺された後に実家に戻ってしまったのには、夫婦仲を疑ってしまいます。著者は「それなりに」夫婦愛はあったとしているようですが・・。

「麟太郎の人たらし」:勝海舟。お順の兄。
実家に戻ったお順は、兄一家と同居します。無役から海軍奉行にまで上り詰めた兄のもとには、坂本龍馬土方歳三など、多彩な人物が出入りするんですね。お順も彼らと知り合ったと思うと楽しいのですが・・。

「俊五郎の無頼」:村上俊五郎。山岡鉄舟の不肖の弟子で、お順といちどは婚約?
勝海舟とともに江戸城無血開城の立役者となった山岡鉄舟は、彼の人間の大きさもあって弟子がたくさんいたそうです。一見ニヒルな剣豪タイプの俊五郎にお順は惚れてしまいますが、こいつが大変なダメ男なんです。明治の世になっても、勝舟にお金をせびるんですから。

お順の言い出したら聞かない勝ち気な性格と行動は小気味良いけど、男運は悪かったんだなぁ。著者が本書を書いた意図は、「順はなぜ佐久間象山の妻になったのか。順はなぜ村上俊五郎に惚れてしまったのか」を明らかにしたかったとのことですが、性格が裏目に出たということ?

2011/4