りぼんの読書ノート

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乱気流(ジャイルズ・フォーデン)

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表紙は、1944年6月6日におけるドーバー海峡付近の気象図です。連合軍の対ドイツ反攻のハイライトであった、ノルマンディー上陸作戦の成功の裏には「発達した低気圧の狭間の一時的な平穏時」の決行という、ドイツ軍の意表を衝いた「気象予想」があったとのこと。

300万人の兵士を無事に上陸させるには、当日が波の穏やかな晴天である必要があり、6000隻の艦艇をノルマンディー海岸に集結させるには、5日間を要していたのです。つまり連合軍の気象学者たちは、5日前に当日の正しい天候を予測するよう求められていたのですが、気象衛星での観測が可能な現在でも週間予報はしばしば外れているのに、当時、そんなことが可能だったのでしょうか。科学者たちは、気象予測に大きな影響を与える「乱気流」の謎に挑みます。

若き気象学者メドウズは、乱気流解読に必須の数式を編み出しながら、兵役を拒否してスコットランドに隠棲する科学者ライマンのもとを訪れます。彼に接近して数式の秘密を聞き出す目的だったのですが、ドイツ軍の偵察機が飛来する中で最悪の悲劇が・・。それでも気象予報チームに呼び戻されたメドウズは必死の予測を試み、異常値を示すと思われたデータから、広範囲の低気圧の中の「高気圧の棚」の発見に至るのです。

第2次大戦に大きな影響を与えた科学者たちの戦いの物語としては、ロバート・ハリス暗号機エニグマへの挑戦が有名ですが、本書もその系統に属する作品。

実名で多くの人物が登場しますし、ライマンのモデルになった科学者も実在の人物ですが、メドウズの回想形式で綴られる本書は、主題と直接関わらない「フィクション」の部分が大きすぎるように思えるのが難点でしょうか。メドウズは、数十年後に氷山で作った船で南極から中東へと向かう途中ですし(氷山船のアイデアは実在したそうです)、ライマンの妻ジルや婦人舞台の画家に心乱されますし、何より、アフリカで生まれ育った経歴がメドウズの心理に及ぼす影響が大きいのです。

まぁ、ウガンダのアミン大統領を描いたスコットランドの黒い王様の作者と思えば頷けますが、このあたりを挟雑物と思ってしまうのか、読み物として楽しめるのかで、本書の評価は変わってきそうです。

2011/4