りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

浮世絵の解剖図鑑(牧野健太郎)

浮世絵解読のプロによる「秘密の暗号を探る謎解き本」ですが、内容は難しいものではありません。江戸の庶民であればすぐにわかるはずの地名、名所、風景、美女などを解説してくれる作品です。それでも現代の東京しか知らない者にとっては、やはり「謎」は多いのです。

 

街の移り変わりには驚かされます。有名な日本橋、銀座、浅草あたりは想像の範囲内ですが、「隠田の水車」に見る田園風景は原宿だし、「赤坂桐畑雨中夕けい」に描かれた溜池は地名を残すだけ。「虎ノ門外あふい坂」の金毘羅宮は讃岐丸亀藩が屋敷内に勧請したものだそうです。「山下町日比谷外さくら田」に描かれた佐賀藩鍋島家の赤門や、渋谷龍厳寺の「青山円座松」もなくなってしまいました。

 

浮世絵は当時の風習も垣間見せてくれます。「夏衣装当世美人」が着る着物や小物は越後屋とのタイアップした高級品。寛政の改革で規制された美人画の代わりとされたのがハウツー本で「女織蚕手業草」で養蚕作業の工程を説明するのは選りすぐりの美女たちです。「両国回向院元柳橋」では櫓太鼓と出幣が相撲興行日であることを知らせてくれています。なお「縞揃女弁慶 安宅の松」で美女が差し出す握り寿司は大きく、食べやすいように2つに切ったことから1貫は2個になったそうです。「神奈川沖浪裏」で大波の中を急ぐ舟が初鰹の一番船を目指していることは、富士山の残雪から判断できるとのこと。

 

花街も人気の題材です。「東都名所新吉原」や「吉原遊郭の景」はそのものズバリですし、「月の岬」の品川宿料亭の障子に映る簪を刺した女性は遊女ですね。「浅草田甫酉の町詣」では田んぼの中にある2階建てというだけで江戸っ子には新吉原だとわかるそうです。窓の外を眺める白猫は、飼い主の遊女が朝まで戻らないことに拗ねているようです。

 

近所の大学の文化祭に本書の著者が招かれ、「浮世絵からタイムスリップ」と題した講演を行うとのことで予備知識を仕入れるために読んだのですが、奥の深い面白いテーマです。当日の講演も興味深く拝聴しました。

 

2023/12