りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

終わりのない日々(セバスチャン・バリー)

19世紀半ばのジャガイモ飢饉で家族を失い、命からがらアメリカに渡ってきたトマス少年は、同年代の放浪児ジョン・コールと運命の出会いを果たします。まだ幼さの残る2人の少年は、ミズーリの鉱山町にある酒場に雇われ、女装をして鉱夫たちとダンスをする仕事に就きますが、やがて男らしさが目立つ年齢に達すると軍隊へと入ります。彼らが何と戦うことになるとも知らずに。

 

ワイオミングでの先住民との戦闘では女子供を虐殺する兵士たちと行動をともにし、南北戦争で従軍した南部諸州では黒人に対する差別や敵味方に分かれたアイルランド人同士の殺し合いを目のあたりにします。それでも2人が正気を保っていられたのは、彼らもまたマイノリティであったからなのでしょう。女装した際に不思議な解放感を覚えたトマスは、ジョンと愛し合うようになっていたのです。

 

両親を失ったスー族の少女ウィノナを2人の娘のように育てながら、兵役の合間にはミズーリの酒場でまた舞台に上がったりしながら、軍で友人となった男の農場にたどり着いた2人は終の棲家を見つけたと思ったのでしょう。しかしウィノナが先住民との捕虜交換のために連れ戻されると知ったトマスは、最後の闘いへと向かうのでした。彼らに安住の日々が訪れることはあるのでしょうか。

 

ミズーリテネシーの場面も多いものの、本書は基本的には「西部劇」です。まだフロンティアの消滅に至っていないアメリカ西部では、個人や集団が敵対者と直接かつ暴力的に対峙せざるを得ません。自分が大切にしているものを自分で守らなくてはならない社会で、人は何を得て何を失うのか。そこでは罪や救済にどのような意味があるのか。カズオ・イシグロは本書について「暴力的でありながら詩的な西部小説であり、生まれつつあるアメリカの圧倒的ビジョンを見せてくれる奇跡の作品」と語っています。全く同感です。

 

2023/12