りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

スモールワールズ(一穂ミチ)

本書が2022年の本屋大賞で3位となり、直木賞候補ともなったことでこの著者を知りました。それぞれに息苦しさを抱える者たちが、家族とのつながりの中で懸命にもがきながら生きていく6篇の連作短編集です。家族関係とは、互いに支え合う美しいものばかりではありません。縛り合い、依存し合い、奪い合う関係にもなりえるものなのでしょう。「連作」と言いましたが、6篇の主人公たちの人生が交差するのはほんの一瞬であり、直接に影響しあうのは冒頭と最後の作品だけです。

 

ネオンテトラ

夫の不倫を知りながら不妊治療中の主婦は、ふとしたことから父親からDVを受けている中学生の少年と知り合います。姪の同級生であるその少年は、姪とただならぬ関係を盛ってしまうのですが。そういえば、深夜のコンビニって人工の光に照らされた水槽のようですね。

 

「魔王の帰還

ある秘密を抱えて出戻ってきた「規格外の姉」は、その巨体とサバサバした性格から「魔王」と呼ばれています。高校生の弟は姉に励まされて不器用な交際を始めるのですが、姉は自分の人生においてどのような選択をするのでしょう。

 

「ピクニック」

初孫の誕生に喜ぶ祖母と娘でしたが、娘が不在の間に生後10カ月で孫は急死してしまいます。祖母が過失致死を疑われたことで、娘は自分に妹がいたことを初めて知らされます。幼い頃に亡くなった妹の存在は、なぜなかったことにされたのでしょう。そのことは、今回の孫の急死と関係があるのでしょうか。

 

「花うた」

兄を殺害されて天涯孤独になった女性が服役中の加害者の青年に出した手紙には、やりきれない怨みが込められていました。しかし勇気を振り絞って本心を見つめ直そうとしている青年に対して、次第に別の感情が湧いてきてしまいます。人は孤独のままではいられないものなのでしょうか。

 

「愛を適量」

離婚歴のある高校教師の中年男性は、妻が引き取った娘と15年ぶりに再会します。しかしトランスジェンダー者であり、性転換手術を受けようとしているというのです。父と娘は、はじめて正面から向き合うことになるのですが・・。

 

式日

冒頭の作品に登場したDV被害者の中学生は、高校を中退して働き始め、ひとり暮らしをしています。家族から見放され、孤独で悲惨な暮らしをしていたアル中の父親が飛び降り自殺をしたと警察から連絡を受け、ふとしたことから知り合った定時制高校の先輩とともに葬儀場に向かいます。彼は自由になったはずだったのですが、たいせつなことを言えないまま先輩とも別れてしまうのでした。

 

2023/9