りぼんの読書ノート

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ケルトとローマの息子(ローズマリー・サトクリフ)

グレートブリテンを舞台とする良質の歴史ジュブナイルを多く残している著者が、ケルトとローマの関りをひとりの少年の運命に託して書き上げた作品です。時代は2世紀前半、ハドリアヌス帝がブリタニアをローマの属州とした頃の物語。

 

訳者はあとがきで「ローマの支配は、それ以前のケルト部族間の争いや、後のサクソン人の侵入に比べると平和的と言えるだろう」と述べていますが、それでも侵入であったことには変わりはありません。先住民族であったケルト人は服従か戦闘の選択を迫られ、ローマの支配から無視されたような辺境の部族だけが、かろうじて独立を保てていました。一方でローマ人とケルト人の混血も珍しくなかったようです。

 

辺境部の村の海岸に流れ着いたローマの難破船で、ただひとり生き残った少年ベリックが本書の主人公。ケルト人の両親に育てられたものの、結局ケルト社会の中に彼の居場所はありませんでした。青年になって村を追放されたベリックはローマの奴隷商人に捉えられ、過酷な運命に翻弄されてしまいます。時には優しい主人に出逢うこともあったものの、最後には鎖につながれたガレー船の漕ぎ手という最底辺に落ちてしまいます。どうやらローマとケルトの混血らしいベリックに安住の地はあるのでしょうか。

 

ジュブナイルですから悲劇のままでは終わりません。またベリックが2つの社会の間で引き裂かれて苦悩する展開にもなりません。本書は、居場所を失って疎外され、アイデンティティを探し求める者たちに希望を与えてくれる物語なのです。

 

2023/9