りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

いつかの岸辺に跳ねていく(加納朋子)

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前半の「フラット」と後半の「レリーフ」からなっている、幼馴染の護と徹子の物語。

 

「フラット」で護が語るのは、ちょっと変わった徹子の物語。はじめに「これは恋とか愛とかの物語ではない」とことわっていますが、もちろんそんなことはありません。変わり者の徹子のことを、護はずっと意識しているのです。道端で突然見知らぬ人に抱き着いたり、護が交通事故で入院した時にまぜか枕元で泣いて謝ったり、合格間違いなしの志望校に落ちてもケロッとしていたり、親友のメグミと護をくっつけようとしたり・・。彼女はいったい何を隠しているのでしょう。やがて徹子とも縁遠くなっていた護は、別の人と結婚していたメグミが亡くなり、徹子も結婚するという話を聞いて驚きます。

 

レリーフ」で徹子が語るのは、彼女の変わった行動の理由を説明する種明かしの物語。なぜ徹子は護に対して謝り続け、メグミを守ろうとして失敗してしまうのか。実は彼女には不思議な能力があるのですが、これが全然役に立たないのです。仇敵となる極悪非道の男カタリからカサンドラと呼ばれる徹子は、悲劇を防げないどころか、自分から悲劇の中に飛び込んでいこうとするのですが・・。

 

もちろん悲劇で終わる物語ではありません。互いを思いやってきた2人の物語が重なる時に起こったのは、普通の人々による奇跡的なできごと。救済も祝福も普通の人々が起こすものなのですね。クリスマスの物語ではありませんが、聖夜に読んで欲しいような優しい作品です。

 

2022/1