りぼんの読書ノート

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盲目的な恋と友情(辻村深月)

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思春期特有の揺れ動く気持ちを描くのが得意な著者の作品ですが、本書は少々ダークな部類に入るのかもしれません。

第1部の「恋」の章は、タカラジェンヌの母をもつ美貌の少女・一瀬蘭花によって語られる、大学オーケストラの指揮者・星近との恋物語。初めての恋愛に溺れた蘭花でしたが、男性は不実であり、人生からの転落が始まると卑劣な本性を発揮し始めます。彼の突然死によって蘭花は救われ、誠実な別の男性との結婚式が始まろうとしています。

しかし第2部の「友情」の章で物語は暗転。聡明ながら不美人で誰からも愛されてこなかった留利絵が語る、蘭花との友情物語は重苦しいのです。はじめて得た華やかな親友への思いは一途であり、他の女友達も、もちろん不実な彼氏も、彼女にとっては邪魔な存在でしかないのです。そして星近の死の真相が明かされます。

意外な人物が犯人なのですが、本書のテーマは謎解きではありません。「不実で卑劣な男性と別れられないのは、蘭花の欲でしかない」と言い切るほどの留利絵の強い感情と、それすら軽く聞き逃してしまう蘭花の感情との落差が象徴する人間関係の難しさですね。自分の人生の価値を他者との関係に求めてはいけないことなど、誰しもがわかっているはずですが、その一線を越えた時に残酷な悲劇が始まるのでしょう。

2019/2