りぼんの読書ノート

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劇場(又吉直樹)

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『花火』で芥川賞を受賞して話題になった著者の第2作です。さぞ重圧がかかっていたのではないかと思うのですが、なかなか読ませる作品に仕上がっています。西加奈子さんが「一気に読み進めたいが、苦しくて、どうしても一度伏せてしまう作品である」と述べるほどパンチが効いているのです。

 

不器用であるがゆえにすべてのものを傷つけてしまう男性と、やはり不器用であるがゆえにすべてのものを受け入れてしまう女性の恋愛が破綻していく物語。主人公の青年・永田は、大阪から上京して「おろか」という劇団を主宰しているのですが、公演を重ねるたびに酷評の嵐を受けて仲間割れを起こし、現在の団員は永田と学生時代からの同級生の2人だけ。先鋭であろうとして世間に受け入れられず、自らの内部で燻る嫉妬や羨望の気持ちを認めることもできない永田は、周囲に対して攻撃的になっていきます。客観的にみたら不器用な社会不適合者でしかありません。

 

そんな永田から偶然声をかけられた沙希は、上京して服飾系の大学に通う学生です。なぜか「パズルのピースがはまったように」感じてしまった沙希は、永田と同棲をはじめて「ここが一番安全な場所だよ!」と言うまでに至ります。そんな2人の関係は自ずと内向きになっていかざるを得ないのですが、そんな虚構の世界で生き続けることなど不可能です。自分の感情をぶつけてくる永田を受け入れる沙希の笑顔にも、次第に疲れがにじみ出てくるのです。そしてやがて、予想された破局が訪れます。

 

2人がいた場所こそ「劇場」だったのでしょう。ひとつの舞台が終わり、2人はまた異なる相手と異なる演劇をすることになるのでしょう。シリアスな作品でしたが、どうしても「ピース」の又吉さんの顔が浮かんできてしまうのには困りました。ただ、太宰や芥川などの文豪の名前をサッカー選手につけて、相手チームと対戦するというサッカーゲームの場面では、又吉さんの姿形をした主人公が妙に馴染んでいた気がします。

 

2021/8