りぼんの読書ノート

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ストーナー(ジョン・ウィリアムズ)

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「これはただ、ひとりの男が大学に進んで教師になる物語にすぎない。しかし、これほど魅力にあふれた作品は誰も読んだことがないだろう」という、トム・ハンクスの感想が全てを言い表しています。しかも名翻訳家であった東江一紀氏が生涯最後の仕事として病床で翻訳されたと伺うと、主人公の人生と二重写しになってしまいます。

 

1891年にミズーリの貧しい農家に生まれたストーナーは、息子に学問をつけさせたいという両親の期待を背負って大学の農学部に進学。しかしそこで英文学と出会って専攻を転じ、両親の悲しみを知りつつも学位取得後は母校で教職に就くのです。大学で生涯の友を得る一方で、妻に迎えた意中の女性との結婚生活は必ずしも幸せではありませんでした。学生の指導や研究に手応えを感じる一方で、学内人事では起用に立ち回ることができずに冷遇されたりもするのです。そして退官と同時に病で65年の生涯を終えるに至ります。

 

まずまずの人生を送ったとも言えますが、「数々の苦難に見舞われつつも、運命を静かに受け入れて可能な限りのことを果たし」て黙々と生きていった人物が抱いた悲しみが、読者にも迫ってくるのはなぜなのでしょう。本書の不思議な魅力については、私の下手な解釈よりも、多くの文学者からの賛辞を紹介しておいたほうが良さそうです。

 

イアン・マキューアン「美しい小説・文学を愛する者にとっては得難い発見となるであろう」

ジュリアン・バーンズ「純粋に悲しく、悲しいまでのに純粋な小説」

・ジョン・マガハーン「中心テーマはさまざまな形の愛、それに敵対する力だ」

東江一紀「平凡な男の平凡な日常を淡々と綴った地味な小説なんですが、そこがなんとも言えずいいんです」

 

1965年に出版された作品ですが、半世紀以上もたって「世界中に静かな熱狂を巻き起こしている」のにはそれだけの理由があるのです。

 

2020/12