りぼんの読書ノート

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ある子ども ギヴァー4部作完結編(ロイス・ローリー)

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長い間3部作と思われていたシリーズに対して、8年後に書き加えられた第4部では、ジョナスが作り上げた村の「その後」が描かれます。 

 

物語は、第1部『ギヴァー』でジョナスがコミュニティを出る際に連れていた幼児ゲイブの誕生から始まります。「出産母」に任命された少女クレアが産み落とした「産品」は、コミュニティのルールで養育センターに引き渡されます。その際に子宮を傷つけたクレアは出産母認定を取り消されて養殖場の労働者となり、通常であれば母子の関係はここで終了。しかし感情を抑制する薬を飲んでいなかったクレアは、息子の存在が気になってならず、やがて息子がコミュニティを出たことを知って、彼を訪ねる旅に出るのでした。しかしその旅は彼女に、とてつもない代償を強いるものだったのです。 

 

十数年後、ジョナスやミラやマティと同様に、ある能力を身に着けていたゲイブにも試練の時が訪れます。ようやく再会できた瀕死の母親のために、ゲイブは「トレード・マスター」と対峙することになるのです。マティの活躍で村から追放されていた邪悪な存在が、なぜ再び登場することになったのでしょう。そして彼の正体はいったい何だったのでしょう。 

 

このシリーズを翻訳した島津やよいさんは、これを「人間を抑圧する社会に適応しない子どもが抵抗を試みる物語」と書いています。第1部『ギヴァー』では管理社会に反逆したジョナス。第2部『ギャザリング・ブルー』では想像力を搾取する社会を変えようとしたキラ。第3部『メッセンジャー』では村と森に迫る不穏な変化に歯向かったマティ。そして第4部である本書では、常に人間の意識に働きかけてくる邪悪な存在に対して、ゲイブが立ち向かうのです。壮大な物語の円環の輪が閉じられた時に読者が気づくのは、自分自身の心中にもある「反抗する子どもの精神」ではないかと思います。 

 

2020/9