りぼんの読書ノート

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めぐらし屋(堀江敏幸)

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主人公の蕗子さんは、就職して20年近くなるというから、たぶんアラフォー世代。母親はすでに亡く、母親と離婚してから疎遠にしていた父親が亡くなって、遺品整理をしている中で「めぐらし屋」と記されたノートを見つけます。そして父のアパートに「めぐらし屋さん、ですか?」と電話がかかってくるのです。 

 

「めぐらし屋」とは何のことで、父はいったい何をしていたのでしょう。おっとりした所のある蕗子さんは、気になるものの性急に謎を追うことはしません。しかし本書は、展開の遅さに気を揉むような短気な読者には向いていない作品なのです。そもそも主人公を「さん付け」で呼ぶほどに、独特の気品を有する世界がここに築かれているのですから。 

 

やがて蕗子さんが父親の記憶を再構築し、父親の知人を尋ねてまわる中で「めぐらし屋」の意味するところが、ほんのりと見えてきます。どうやら父親は、さまざまな頼みごとに対して対応策を考えてあげていたようなのです。でもその内容は「コンサルティング」とか「アレンジメント」ではなく、「ちょっとした親切」程度でもあるようです。つい『まほろ駅前多田便利軒』と比較してしまいましたが、似ているのか全然違うのかも謎のままです。 

 

本書は、そんなおっとりした蕗子さんが「ある決意」をする所で終わりますが、決して「人生が変わるような重大な決意」ではないことは保証できます。著者は、本書の内容と、登場人物の呼称を含めた文体と、全部計算しているのでしょうね。蕗子さんの友人の「レーミン」なんて傑作すぎます。上手すぎて、逆にちょっと嫌味を感じてしまうほどです。 

 

2020/3