りぼんの読書ノート

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この世にたやすい仕事はない(津村記久子)

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脱力系の著者による「女性のお仕事小説」は、やはり独特です。ストレスに耐えかねて14年間勤めた職場を去った36歳の女性の希望は「一日コラーゲンの抽出を見守るような仕事」。できるだけその希望を叶えようとしてくれる職業紹介所書の相談員が次々に見つけてくれたのは、「みはりのしごと」、「バスのアナウンスのしごと」、「おかきの袋のしごと」、「路地を訪ねるしごと」、「大きな森の小屋での簡単なしごと」。 

 

どれも「本当にそんな仕事があるのか」という内容の楽な仕事ですが、それなりに苦労はあるもの。モニターで小説家を見張る仕事では、地縛霊のようなつまらない思いにさせられ、コミュニティバスの広告アナウンスを書く仕事では、アナウンスと開店・閉店の不思議な関係に悩まされます。米菓の小袋の裏面に書く目目知識を考える仕事では、思わぬライバルの登場に嫌気がさし、ポスター張替えを依頼する仕事は、雇い主が目的を達成した途端になくなってしまいます。そして森林公園を見回る仕事は気に入ったものの、花粉症でダウン。 

 

主人公はどの仕事でも起こる事件の解決に関わるのですが、「ヒマなついで」というスタンスは変わりません。もっとも勤務先が次第に家から遠くなっていくのは、精神的な回復度合いと連動しているのでしょう。この小説が日経新聞に連載されていたということに驚かされますが、本当にストレスからの解放を臨んでいるのは、日経新聞の読者なのかもしれませんね。 

 

2020/1