りぼんの読書ノート

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蠅の王(ウィリアム・ゴールディング)

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いわゆる「漂流もの」ですが、本書の背景には戦後の冷戦と核開発競争があるようです。悪の象徴とされたナチスを倒した連合国側の国々が、再び対立を深めていくという事態に直面して抱いた、暗澹とした思いが著者に本書を書かせたとのこと。ともあれ、ついに核戦争が勃発して、疎開途上の少年たちを乗せた飛行機が南太平洋の無人島に不時着した場面から、物語が始まります。
 

 

生き残ったのは少年たちだけ。救援を求める狼煙の管理を最優先事項として掲げる、模範的ボーイスカウトのようなラルフがリーダーに選ばれます。狩猟隊を率いるジャックもラルフに従い、原初の楽園のような生活が始まったものの、暗闇に潜むという「獣」に対する恐怖が募る中で互いに疑心暗鬼が生まれ、ついに悲劇が起こるのでした。 

 

タイトルの「蠅の王」とは、悪魔ベレゼブブを意味します。獲物であった豚の頭に宿った蠅の王にささやきかけられるのが、ある種の聖性を垣間見せるサイモン少年であることも象徴的です。皆の心の中にも蠅の王が潜んでいることを知ったサイモンですが、仲間たちから離れることはできません。 

 

1954年に著された本書は、「無垢な少年たち」という概念を覆した作品として知られています。本書は同時に「白人が有色人種を文明化する」との帝国主義イデオロギーも覆しているのですが、現代では当然すぎることなので、かえって気づきにくいように思えます。 

 

2019/9