りぼんの読書ノート

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孟夏の太陽(宮城谷昌光)

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中国の古代史小説といったら、第一人者は宮城谷さん。それも、殷、夏、商から、春秋・戦国時代という、狭いところを中心に書き込んでいくのですから、この分野では他の作家の追随などもなく、ほとんど独占市場。ニッチな分野ですが、日本の戦国時代物語に飽き足らない層が読者なのでしょう。

本書は、春秋時代の大国「晋」に仕えた有力な一族で、やがて戦国時代には独立して「趙」の君主となる趙一族の盛衰をオムニバス方式で描いています。

第一話は、有名な晋王・重耳に仕えた趙衰の子である、趙盾の物語。父親同様に晋の宰相となるものの、自らが推戴した王にうとまれ、王と対立することになってしまいます。古代中国における忠臣や信義の意味は・・。

第二話では、栄耀を誇っていた趙一族がクーデターに遭い、ほとんど滅びそうになってしまいます。ただ一人生き残った幼い男児を長年隠し通した忠臣と、やがて家を再興した趙朔の物語。

第三話と第四話の趙鞅と趙無恤の時代には、趙氏は独力で北方の代の国を滅ぼす力を持つに至り、独立への道を進んでいきます。当時、隣国の魯には孔子がいたんですね。魯を簒奪しようとして孔子に追い出された陽虎を、趙鞅が平然と用いるエピソードなど、栄えた一族には、それだけの器量を持った主君がいたということを示しています。もちろん、優れた家臣も。

描かれている時代が長いので、それぞれの物語に、重耳、郤缺、士会、子産など、他の宮城谷小説の主人公たちも、脇役で登場してきます。縦横の関係で歴史を重層的に眺められるのが、この人の本を読む楽しみの一つです。

2007/12