りぼんの読書ノート

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空色勾玉(荻原規子)

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この作家の本は『薄紅天女』についで、2冊目です。どちらも「こんなタイトルでこんな表紙」の割りには、内容は深い。中高生にも人気というライトノヴェル・ファンタジーですが、著者の神話と古代史への造詣の深さが素晴らしいのです。

かつて男神と女神は豊葦原の国と八百万の神々を生み落としましたが、女神の死によって、黄泉平坂にて天上と地下に隔てられてしまいます。男神は、いまや憎しみの対象へと変わった豊葦原の国を滅ぼすべく、輝(かぐ)の大御神である双子の姉弟を、地上に光臨させました。

一方で女神は黄泉の坂を下る途中、地上の心悪しき子らの心を鎮める子どもたちを産み、そのしるしとして勾玉を持たせていました。それが、死すべき者でありながら、甦って命を伝える一族・闇(くら)。

闇の一族の巫女姫「水の乙女」であることを知らされた少女・狭也は自らの運命を拒み、輝の御子・月代王の元へと嫁ぐのですが、祭壇に縛められた輝の末弟である「風の若子」稚羽矢と出会います。2人の運命の出会いにより、全ての鍵が解けてゆくのですが・・・。

生は清く、死は穢れなのか。神は尊く、人は卑しいのか。輝(かぐ)と闇(くら)に、正邪はあるのか。ボケボケの2人が、生と死の意味を見つめていく成長過程がいいですね。稚羽矢が、黄泉の国へと狭也を迎えに行く場面などは、絶品です。

作者の死生観には『ゲド戦記』のル・グィンとも通じるものがありますね。死生観こそ、世界中の古代神話に共通して流れるメインテーマですから、優れたファンタジーが行き着く所なのかもしれません。

このシリーズ、3部作なんですよね。「3」から読み始めて、今回「1」を読んでしまった・・。順番ぐちゃぐちゃだけど、「2」を読まないわけにはいきません。

2006/8