りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

女神記(桐野夏生)

イメージ 1

「新・世界の神話シリーズ」で、日本を代表して「イザナキ・イザナミ神話」を再構成してくれたのは、桐野夏生さんでした。遥か南の海蛇の島で、大巫女を継いだ姉と、穢れを背負う運命の妹。16歳で運命に逆らい掟を破った末に死んだ妹ナミマは、迷える魂がたどり着いた地下神殿で1人の女神と出会います。その女神の名はイザナミ

黄泉比良坂で逃げるイザナキに投げつけた「人間を毎日1000人殺す」との呪いの言葉を千年もの間実行し続けているイザナミの怒りはいまだ解けていません。しかも、人間の男の姿になって人間の女を孕まし続けているイザナキに想われた女性を狙い打ちして殺すという念の入れ方なのですが、これは嫉妬ではなく「神の怒り」。

そもそも神である身が、なぜ穢れて死の世界で暮らすことを運命づけられたのか。男神であるイザナキが、なぜ自分と別れてから単身で、最高神アマテラスを産めたのか。

男神イザナキは、永遠の生に倦み疲れ、執拗なイザナミの怒りをなだめるために神であることをやめたいと欲したことで、ついに女神の怒りの前に屈することになります。その姿は、打算のためにナミマを殺した男の末路と重なるのですが・・。

この本は、フェミニズムのテキストで読むものなのでしょうか。本来「創造の神」である女神が「破壊」に徹した時の凄まじさと、しょせん人間の女であるナミマが怒りに徹することができずに情けを見せてしまうことの対比を思うと、必ずしもそうでもなさそうなんですけどね。

2009/3