りぼんの読書ノート

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お化けだぞう(村田喜代子)

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ちょっと前に読んだ『人が見たら蛙に化れ』は、骨董につかれて「お宝探し」に狂奔する男女を描いた本でしたが、数年前にかかれた本書は「不思議な草木」につかれた人たちが主人公。そこそこ面白かったけど、「蛙」には及ばないかな。

隠居した江戸日本橋呉服商、浜田屋主人藤兵衛の楽しみは、当時流行した「本草学」に入れ込む人たちの間で話題になる「不思議な草木」を訪ねて、日本中を旅すること。一代で巨財を築いた豪商には、この程度の楽しみは許されるのです。

立ち上がる倒れた松の木、馬を食らう楠、天から降ってくる五穀・・。「草木の怪異」見たさに、藤兵衛一行は、南へ北へと旅をします。本当に不思議なことと、説明のつくことが同居しているのが楽しい。アタリとハズレがあるのが、微妙にリアリスティック。^^

しかし一番不思議なのは、やっぱり人の心なのでしょう。藤兵衛の後妻のタキは、ついでの湯治を楽しみにしていたのですが、だんだんと、彼女が率先して旅に出るようになるんですね。しまいには「南蛮の草木」を見たいと言い出す始末で、思いがけないラストに繋がっていきます。

ところで、この話の舞台になっている元禄時代というと、奢侈禁止令が出されるほど商人経済が発展した印象がありますが、地震、大火、富士噴火など天変地異が連続した時代です。不思議を求めるのは、奇跡を願う追い詰められた心なのか、経済的に余裕が出たせいなのか、どちらなのでしょう?

2005/9