りぼんの読書ノート

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シーボルトの駱駝(矢的竜)

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長崎のオランダ商館長ブロンホフが、将軍家斉に献上するつもりで持ち込んだヒトコブラクダは、江戸への異動と飼育に手間がかかるとして、幕府の受け取り拒否にあったそうです。しかしその数年後には、江戸・両国にてラクダの見世物興業が行われて大盛況だったという史実もあるのです。著者は、2つの史実の間を繋ぎ合わせるものとして、旅芸人の一座がラクダを引き取って日本各地を回ったというフィクションを創り上げました。主人公は、つがいのラクダたちの世話をし続けた女性です。

天涯孤独な娘さわは、死の淵から救ってくれた旅芸人の大五郎一座に加わったものの何の芸もなく、一座もじり貧状態でお先真っ暗。そんな折、厄介者だったラクダを無償で引き取れるという話が舞い降りてきて、一座は息を吹き返し、夫になった留吉と2人でラクダ係になったさわも大活躍。一座は各地でラクダ興業を行いながら、ついに江戸に乗り込みます。しかし彼らに対して、国外追放となったシーボルトの手先ではないかという嫌疑がかけられてしまうのでした・・。

本書の前半で描かれた、江戸期の興業事情が楽しい作品でした。地方都市ではトントンがいいところ。結局は前人気を煽って、江戸や大坂で稼がないとプラスにならないのですね。そしてラクダが当たったとみるや、ぬいぐるみをはじめとして、偽物も横行したようです。

後半になってシーボルト事件とラクダ興業を結びつけた展開は、はっきり言って微妙。それでも、はるばる日本まで連れてこられたラクダたちが、さわ夫婦の世話によって農村で天寿を全うし、ラクダもそれに報いたという物語には、ほのぼのとした暖かさを感じます。

2018/6