りぼんの読書ノート

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蟹工船・党生活者(小林多喜二)

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戦前のプロレタリア文学である本書が、「究極のブラック職場」とのことで数年前にブームになっていたようです。あらためて再読してみると、想像を絶する世界でした。

蟹工船は「航船」でも「工場」でもないとされ、航海法も労働法も適用されないというのです。しかも北洋漁業振興の国策から、政府も事態を黙認していたというのでは、救いはどこにもありません。有名な冒頭の「おい、地獄さ行ぐんだで!」という言葉には、何の誇張もないのです。何しろ、居住空間を「糞壺」と呼ぶくらいなのですから。

劣悪で危険な労働環境と、横暴で非情な現場監督の仕打ちのため、労働者たちは次々と倒れていきます。転覆してロシアに救出された乗組員が、社会主義の理念ともいえない稚拙なスローガンを稚拙な通訳で聞かされたことすら、「赤化」とみなされます。果たして、サボタージュを指導した者たちは、同じプロレタリアートであるはずの海軍の水兵によって、逮捕されてしまいます。労働者たちは「死ぬか、生きるか」の環境の中で、二度目のストライキに立ち上がるのですが・・。

戦前の軍需工場の中で、やはり命がけで戦争反対のビラを撒いて、労働運動の高揚を目指す「党生活者」が併録されています。主人公がわずかな希望を抱く結末に、むなしさを感じてしまう作品でした。気になったのは、迫害の中で男女関係も歪んでいってしまう点。実は戦前のプロレタリア文学には、男性の活動家が女性の後進性を指摘するようなケースも目立つのです。

2017/8再読