りぼんの読書ノート

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妖星伝 6 人道の巻(半村良)

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外道皇帝が、肉から脱して霊的存在となった鬼道衆とともに、地球から去ろうとしています。地球を「生命が生命を喰らい合う妖星」に作り変えてまで果たそうとした使命は、ここで完結。それ以上は「知るあたわず」としてもよかったのでしょうが、続きは10数年後に出版された第7巻で示されることになります。

では、宇宙的な使命を果たし終えた後の地球で、人が生きることに意味はあるのか。著者が準備した「答え」は、鬼道衆の中でただひとり地上に残された朱雀のお幾と、かつて紀州胎内道をともに巡った一揆侍の栗山定十郎の「その後」でした。後日談のような巻ですが、これがあって、このシリーズは締まったと思います。

地球生命の本質と未来を知ってしまった2人にとって、信州上田での壮絶な一揆がどのような結末を迎えようと、関係なかったはず。まして、江戸・根岸に隠棲しての近所づきあいなど、何ほどの意味があったのでしょう。しかし、生きることがどれほど醜悪であっても、そこにはささやかな喜びもあるのです。

恐るべき現状肯定でもあるのですが、本書を読んでいて風の谷のナウシカのラストを思い出しました。文明再興のためには「私こそが唯一の希望なのだ」とする墓所の主に屈服することなく、「違う!命は闇にまたたく光だ!」と反論する場面のことです。

2016/7再読