りぼんの読書ノート

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海鳴り(藤沢周平)

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藤沢周平さんの作品は武家物のほうが有名ですが、本書は市井物。しかもテーマはダブル不倫です。とはいえ、不義密通が死罪にあたる江戸時代のことですから、決して浮ついた話ではありません。武家物と共通する「凛とした」雰囲気さえ漂う作品です。

主人公は、46歳になって老いを意識し始めた紙問屋主人の小野屋新兵衛。あくせく働いてきて今の地位を築いたものの、気づいてみれば妻とは不仲で、息子は放蕩者。しかも、商売でも大店の策略に嵌められて、苦しい立場に陥りつつある状態。

そんな時、同業者の会合の帰り道で、他の紙問屋のおかみである「おこう」という魅力的な女性と知り合います。心労が重なる中、おこうに対する真摯な思いはつのるばかり。一方のおこうも、子供を得られなかったこともあり、夫からも姑からも陰湿な苛めを受けている模様。遠い海鳴りのような不安の予感を抱きながらも、2人はやがて一線を越えてしまうのですが・・。

著者は心中という結末を想定していたそうです。しかしながら、登場人物に情が移ってしまい、オープンエンディングにしたとのこと。2人の旅路は、まるで「道行き」のようにも思えるのですが、どうしても応援したくなってしまいます。

2016/2