りぼんの読書ノート

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スマイリーと仲間たち(ジョン・ル・カレ)

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「スマイリー3部作」の最終巻では、ついにスマイリーとカーラの長年の対決に決着がつけられます。

アメリカ情報局に従属する形となった英国情報部から再び引退していたスマイリーに、新たな非公式の依頼が舞い込みます。カーラに関する情報を英国に伝えようとしていた「将軍」と呼ばれるソ連からの亡命者が殺害されたのですが、東側諸国からの亡命者を冷遇する風潮が支配的になっていたサーカスは、公式に動きにくくなっていたのです。

スマイリーは亡命者たちや、やはり引退していたソ連通のコニーらからの証言を集めて「将軍」が伝えようとした情報に迫っていきます。パリに住む亡命者女性の前に現われた脅迫者、彼女がソ連に残したままの娘に関しての破格の提案、彼女の相談に乗った「将軍」が手に入れたというある証拠品の行方・・。そこから浮かび上がってきたのは、謎の女性が亡命者の娘に偽装しているとの不自然な工作だったのですが・・。

かつてスマイリーを無力化するために、カーラはスマイリーの妻のアンを使いました。カーラの手先となっていたヘイドンとアンとの密通が引き起こしたスマイリーの苦悩は、「3部作」の通奏低音をなしているのですが、カーラの弱点もまた家族だったのですね。

情報と推論を積み重ねて事実に到る過程に重点を置き、本来ならクライマックスとなる最終章を淡々と描くという叙述方式は、このシリーズに特有のスタイル。元敏腕スパイであったというスマイリーの過去も仄めかせるだけというストイックさに徹した「3部作」は、いまだに健筆を誇るル・カレさんの最高傑作だと思います。

2012/7再読