「スマイリー3部作」の中核をなす作品です。前作『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』にて、英国情報部の幹部であった二重スパイを暴き出して臨時のチーフとなったスマイリーですが、長年、二重スパイに壟断されていた英国諜報部の権威は失墜し、世界中で活動縮小を余儀なくされています。
カーラの資金を受ける香港の大物実業家ドレイク・コウとは何者で、彼の歴史の中には何が潜んでいるのか。その出自から「閣下」と呼ばれるウェスタビーは、ヴェトナムへ、さらにラオスへと飛び、ドレイクの弟ネルソンの存在を「発見」するのですが、それは中国情報部を手玉に取ろうとするカーラの重要な遠謀に繋がる鍵だったのでした・・。
スマイリーやソ連通のコニーらの緻密な解析と作戦がメイン・ストーリーなのですが、本書の主役はやはりウェスタビーですね。コウの愛人リーゼに恋心を抱いたウェスタビーは、乾坤一擲の作戦を失敗にしかねない無謀な行動に出るのですが、それがイギリスとアメリカの主導権争いに結びついていくあたりは、著者の面目躍如といったところ。
カーラの行動は阻止しえたものの、結末は決して「単純な勝利」とはなりません。やはりル・カレさんの作品は「文学的」です。
2012/7再読