りぼんの読書ノート

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ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ(ジョン・ル・カレ)

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最近「たそがれのサーカス」なる邦題で映画化されました。これだけ複雑で細部が重要な物語を、どうやって映画化できたのでしょう。

英国諜報部「サーカス」の中枢に潜むという、ソ連の二重スパイを探し出すために引退生活から呼び戻された老齢の元諜報部員スマイリーが、膨大な記録と証言から核心に迫っていく物語はこれだけでも濃厚ですが、本書は「スマイリー3部作」の第1弾にすぎません。

スマイリーと,重スパイを操るソ連諜報部の宿敵カーラとの対決は、本書の後もカーラの中国での策謀を巡る『スクールボーイ閣下』、そして2人の直接対決に至る『スマイリーと仲間たち』に引き継がれていくのです。

かつての英国諜報部のチーフであった「コントロール」は、二重スパイが提供する重要情報にたちうちできずに引退に追い込まれるのですが、その前に二重スパイの存在を確信して容疑者を5人にまで絞り込んでいました。

古い童謡にちなんで、ティンカー、テイラー、ソルジャー、プアマン、ベガマンとのコードネームをつけられた5人の幹部のうち、誰が二重スパイなのか。失敗に終わった作戦を綿密に調べて情報を知りえた男を限定し、二重スパイの手口を理解したスマイリーは、スパイをおびき出す罠を仕掛けるのですが・・。

本書の背景には、英米の諜報界を震撼させた「キム・フィルビー事件」があります。その事件に刺激されてル・カレはこの3部作を、ディトンは『ベルリン・ゲーム』に始まる「バーナード・サムソン3部作」を著わしました。どちらも単なる「スパイもの」の域を超えて、文学的な秀作に仕上がっています。

「冷戦」という時代背景も、「二重スパイ」というテーマ自体そのものも、「文学的」な要素に満ちているということなのでしょう。

2012/7