りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

夜をゆく飛行機(角田光代)

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谷島酒店の4姉妹の末っ子である里里子の視点による、転換期を迎えた家族の物語。昔ながらの商店街が駅の反対側へのスーパー進出で寂れ行く中、谷島酒店も例外ではありません。父は「リカーショップ」への改装を試みるのですが、その程度で流れが変わるものではなかったことは、読者のほうが既に知っています。

4姉妹の性格は、「上流」に憧れた母によって入学させられた「お嬢様学校」での居心地悪さへの対応によって書き分けられています。長女の有子は恋愛に走り、次女の寿子は石になって耐え、三女の素子は上流の仲間に入ろうとイタい努力をし、四女の里里子に至っては公立高校に転校してしまうんですね。

でも変化は、4姉妹にも及んできます。既に嫁いでいる有子は夫の元から飛び出してしまい、寿子はなんと作家デビューして新人賞を受賞。寿子が綴ったのは家族の過去の実話にすぎず「2作めはない」ことは
冷静な姉によって早くから見透かされているのですが・・。ちゃらちゃらしていた素子は、家業を手伝うべくソムリエを目指しますが、やっぱり地に足が付いていません。そして里里子は大学受験に失敗し、初体験を・・。

里里子の性格は、悪いことを「なかったこと」にして日常の変化を拒もうとする父母に近いのですが、叔母や祖母の死という痛ましい事件を経て、彼女も気づいていきます。寿子の小説に描かれた家族の「実際の過去」は、もはや「フィクション」なんだと。もう存在しない、二度と戻れない世界になってしまっていると。「前を見る」ようになるまで、もう一息!

2011/2