りぼんの読書ノート

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闇の守り人(上橋菜穂子)

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精霊の守り人の続編です。主人公は、前作と同様に30代の女用心棒バルサ。前作の旅は、為政者によって歪められた伝承が、本来協力し合うべき関係の者たちを抑圧者と被抑圧者に分っていた不幸な歴史を正しましたが、今度の旅は自らの過去へと向かいます。

王位継承を巡る陰謀に巻き込まれて殺害されたバルサの父の依頼を受け、幼いバルサを連れて逃亡の旅に出た養い親のジグロは、反逆者の烙印を押されたまま最後には病に倒れていました。バルサの思いは、そんなジグロの真実の姿を彼の家族に伝えたいという単純なものでしたが、国王が代替わりしても25年前の陰謀はまだ終わっていませんでした。それどころか、前の陰謀と連続した新たな陰謀が進行中だったのです。

アフガニスタンを思わせる貧しく弧絶した山国カンバルの富は、山底の闇の中に潜んでいる「もうひとつの国」との交易から得られていたのですが、そこは「闇の守り人」によって守護されている別世界。そこに攻め入ろうという陰謀にバルサも巻き込まれてしまう。「闇の守り人」の正体こそが本書のエッセンスなのですが、彼らと正対することはバルサにとって、あらためて自分の過去と正面から向き合うことを強いるのでした。

養い親のジグロはもちろんバルサを愛していたのですが、、討手となった元の仲間たちを殺害しなくてはならなかった悲しみや悔しさが、幼女に対して複雑な思いも抱かせたこと。バルサもまた、そんな養父の気持ちを感じ取っててしまい、後ろめたさを覚えていたこと。互いの思いを昇華させるための試練が、本書のクライマックスになっていきます。王位継承の陰謀はいかにも欧州的だけど、「弔い」の意味を掘り下げた内容はやはり日本的。このシリーズが、優れた「和製ファンタジー」と言われる所以ですね。

2009/3