りぼんの読書ノート

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愛の裏側は闇3(ラフィク・シャミ)

1960年に20歳を迎えたファリードとラナーは、地獄の10年間を過ごすことになります。修道院寄宿学校から解放されたファリードは大学進学を認められますが、友人の影響で共産主義青年同盟に加入。しかしソ連との関係を強化していたシリアにおいても、共産主義者は許される存在ではありません。幽閉を解かれて大学に進学したラナーとは秘密裏に交際を続けていましたが、自由を満喫できた期間は短いものでした。

 

ファリードは秘密警察に逮捕されてしまいます。共産主義を捨てることを拒否したために収容所に送られ、日常的に虐待を受ける中で、唯一の希望はラナーへの愛でした。政変による恩赦で釈放されたものの、教員として赴任した先は第3次中東戦争イスラエルに奪われるゴラン高原の僻村でした。そして敗戦後の粛清によって再び収容所に送り込まれてしまいます。そしてそこには彼を憎む仇敵もいたのです。

 

一方で、収容所送りとなったファリードを想いながら暮らしていたラナ―は、家族の卑劣な企てによって従兄に暴行され、無理矢理結婚させられてしまいます。心を閉ざして結婚生活をやりすごす決意をしたものの、ついに精神に変調をきたして精神病院へと送られてしまうのでした。あまりにも厳しい試練に2人は打ち勝つことができるのでしょうか。著者の独白となる最終章では、ファリードと著者はまるで同一人物であるかのようなのですが・・。

 

「氏族の書」に始まり、「成長の書」、「孤独の書」、「地獄の書」と続く大河物語の幕間に挿入される「笑いの書」は緊張を緩和してくれますが、これも単純な挿話ではありません。シリアをアラブ単一民族社会とみなす不合理や、イスラムにおける女性蔑視の伝統や、共産党員を見殺しにする社会主義国家などに対するブラックユーモアです。本書の物語は「ダマスカスの春」と呼ばれる1970年に終わりますが、シリアの苦難はその直後に増幅した形で再開されてしまいます。アサド父子政権下の弾圧や、反政府勢力やイスラム国勢力との内戦を、著者はどのように描くのでしょう。

 

2022/9