りぼんの読書ノート

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愛の裏側は闇2(ラフィク・シャミ)

物語は、ファリードの幼年時代へと戻ります。父親は村の厳格な家系の傍系であったため、比較的リベラルな思想の持ち主でした。ヴェネティア人の血を引くという母親にも深く愛され、彼の幼年期は幸福なものでした。しかしファリードの人生は、ラナーを愛したことによって一変してしまいます。

 

ダマスカスで出会って恋に落ちたファリードとラナーの気持ちは、両家が仇敵同士であることを知っても揺るぎませんでした。しかし、いかにリベラルな父親であっても2人の関係を認めることはできません。一方のラナーの両親は女性の人権に関して保守的であり、彼女の意向など初めから無視してかかっています。絶望的になった2人は未成年であるにもかかわらず、いや未成年であるからこその無鉄砲さでベイルートへと駆け落ちしてしまいます。もちろんそんな無謀な企てが成就するはずもなく、2人は見つかって連れ戻されます。

 

ラナーは家の中で幽閉状態に置かれ、ファリードは寄宿制の修道院学校に入れられました。しかしそこも一種の煉獄でしたファリードを待ち受けていたのは、アラビア語を禁止され、本名を使うことさえ許されず、厳しい労働やリンチや嫌がらせ、そして孤独に耐えつづける日々。そこで彼は、生涯に渡る友人と仇敵を得ることになるのですが、この時はまだそれが人生における重大な出会いとは気づいてはいません。

 

2人の物語の背景では、シリアがたどった複雑な歴史が描かれます。1946年にフランスから独立した共和国は、早くも3年後に起こったクーデターで軍事独裁化します。その後クーデターや反乱鎮圧が繰り返される中でイスラムを進めた政権は、1958年にエジプトと連合。全ての政党が解党されて翼賛政治が始まる中で、ソ連との協力関係も深まっていきました。修道院学校から救出されて社会復帰したファリードが、学生としての生活を始めるのは、そんな時代の中でのことでした。

 

2022/9