著者の出世作である「幻想シリーズ」の最新刊には、この世とあの世のあわいを結ぶ寝台車が登場します。バスに乗ってあの世に向かうのが通常コースなのですが、特別なケースに限って「寝台特急ひとだま」を利用できるというのです。
恋人に去られて狂言自殺を図った青年・多聞が目覚めたのは、死神たちの村。しかし彼は本当に死んだのではなく、誰かの身代わりにされてそこに送り込まれてしまったようなのです。数年前に村から出奔した不世出の死神ジョカを頼って、自力で真相を探らないと現世に戻れないとのことで、死神たちは多門を寝台特急に乗せて現世に送り返します。
寝台特急に乗り合わせたのは、黄泉の国の特別研究員扱いを受けている井上円了や柳田邦夫。列車内でも不思議な出来事が起こるのですが、売り子の瓜子姫と天邪鬼のエピソード以外は本筋とあまり関わっていませんね。『幻想郵便局』で探し物の達人として登場したアズサの手助けで、多聞はジョカと会うことができたのですが・・。
最後は多門の兄弟愛の物語となるのですが、このシリーズにはもっとドロドロ感を期待したいもの。それでも、ジョカのぶっとんだキャラクターでかなり救われています。
2019/9
