死の床にある父を看取ろうとする息子が、父親の人生を語ります。ところが、父から聞かされてきた話はすべてホラ話なのです。
釣り上げた大ナマズに引っ張り込まれて訪れた湖底に沈んだ街。父の故郷の出口にあって、都会に出て夢を実現する見込みのない者を永遠に閉じ込めてしまう奇妙な街。貿易商になって稼いだ金で、気に入った村を買い取ってしまった父。そして要所要所で現れて、父に影響を与えた、不思議な川の少女。
あきれるほどに突飛で幻想的なジョークとホラ話を残した父が、病気になって、仕事も話すこともない「ただの人」になってしまう。でも息子が知りたかったのは、ジョークではない本当の父親の姿。
そんな父親の死は、どう訪れるのか。4パターンのシミュレーションも、ホラ話なのでしょう。息子に頼んで病院を抜け出し、愛したアラバマの川に身を沈めた父親は、「神話」になるのですから・・。フィクションは、信じたいものにとっては、真実になる? どうやら、そういうことではなさそうです。フィクションこそが真実を伝える唯一の手段となるケースがある、ということなのかも知れません。
ところで、この小説はティム・バートンによって映画化されました。原作の雰囲気をとどめながら、より幻想的な映像とストーリーで、父親の突拍子もない人生を綴り、父と息子が最後に心を通わせる様を描いた感動的な秀作だそうです。この映画は人前では見られないな。自分の父のことを思い出すから。
2007/2