りぼんの読書ノート

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親鸞 全挿画集(山口晃)

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五木寛之さんの『親鸞3部作』が新聞に連載されていた時の挿画、全1052点をすべて、画家の「絵解きコメント」つきで収録した作品です。最初は『親鸞』の「紙芝居バージョン」かとも思いましたが、本書からは物語のストーリーは超断片的にしかわかりません。本書は、画家の思考の軌跡をたどることで、創作の秘密にまで迫ろうという作品なのです。

 

著者が圧倒的な画力の持ち主であることは言うまでもありませんし、挿画を数点見ればすぐに理解できることなのですが、本書を貫いているのはチャレンジ精神です。五木氏から「思う存分やって下さい」と言われたのにも拘わらず、かなりのダメだしもあったようですが、それでも「これで大丈夫だったのか」と今更ながら心配になってしまうほど大胆が挿画が並びます。

 

心象風景として怪異が登場するのはまだわかるのです。鉄塔や新聞や自転車や栄養ドリンクなど、時代ものにありえない背景や小道具の利用。言葉からの連想や言葉遊び。親鸞が比叡から筑波に移る場面で同名の2隻の軍艦を描くとか、牛が売られる場面に逆さの「等等」の文字を配して「ドナドナ」と呼ばせるとか、「もういい」という場面に牛と井伊直政を描くなどは、もう絵解きというよりもダジャレですね。

 

著者は、恵信尼の裸体を描くか否かさんざん迷って止めて、後悔したそうです。でもご安心あれ。本書には没になったり差し替えたりした挿画も掲載されており、その中に裸体図の断片もありますので。なお、神がかり状態になったサトのモデルは上戸彩さんだそうです。妖艶です。

 

2019/8