りぼんの読書ノート

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インヴィジブル(ポール・オースター)

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1967年に燃え尽きるような体験をした学生ウォーカーの手記が、2008年になって、小説家となっていた元同級生ジムのもとに突然送り付けられてきます。まもなく病死したウォーカーに代わって、小説家は彼の物語の後日談を見極めることになるのですが、両者の短い時間の交流の中からは、現代世界における「インヴィジブル(不可視)」な存在が浮かび上がってくるようです。

 

「春」「夏」「秋」と名づけられた3部作の手記の中で、ウォーカーは謎めいたフランス人大学教授ボルンから文芸誌創刊の話を持ち掛けられるものの、彼の凶暴な一面を垣間見てしまって拒絶。実姉との禁断の恋に堕ちた後に、留学先のパリでボルンと再会。ボルンの元カノとつきあう一方で、ボルンが再婚しようとしている母娘に引き合わせられますが、ボルンの秘密を暴こうとした途端にアメリカに強制送還されてしまうのです。

 

やがてジムはボルンの晩年の姿を知ることになるのですが、ボルンとはいったい何者なのでしょう。物語に綴られている内容をそのまま信じれば、ボルンは政治的な秘密工作に関わっていた人物ととれるのですが、そう簡単な回答ではなさそうです。ベトナム戦争への徴兵を怖れていた1967年当時の学生の視点から、巨大な「インヴィジブル」と思えた事象の総称なのかもしれません。

 

著者は、現実と虚構の境界をあいまいなままに放置しているようです。それは現在においても、何の変哲もない日常の背後に「インヴィジブル」なものが存在していることを、暗示しているようです。

 

2019/8