りぼんの読書ノート

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獣の奏者 外伝 刹那(上橋菜穂子)

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中編2作と短編1作からなる外伝です。本編からのスピンアウトや、本編の前史や後日談が「外伝」として描かれることもありますが、本書のケースは、本編で省略されたエピソードですね。できれば、ゲド戦記外伝の「カワウソ」や「トンボ」のように、本編の物語世界の理解を深める内容であって欲しかったのですが、一読者の勝手な期待にすぎませんね。

「刹那」
第2巻と第3巻の間にある「空白の11年」の一部を埋めてくれる作品です。エリンとイアルが互いに惹かれあっていく過程が、エリンの出産を案じている最中のイアルの回想として語られていきます。心ならずも国家の最重要人物となってしまったエリンが、ひとりの女性として懸命に生きようとした姿に、胸を打たれますね。彼らには時間がないことを知っているだけに、生き急いだ印象も受けてしまうのですが・・。

「秘め事」
エリンの師であったエサルの学生時代のエピソード。貴族の長女に生まれたエサルが、なぜ平民を対象とするカザルム王獣保護舎の教導師長となったのか。その背景には、ジョウンから寄せられる想いに気づきつつ、婚約者のいるユアンへの想いを振り払えないでいた、秘められた恋の物語があったのです。彼女の強さの核には、この思い出がずっとあったのでしょう。

他には、母親となったエリンが、2歳になった息子のジェシの成長を垣間見た「初めての・・・」が収録されています。著者は、本書について「人生の半ばを過ぎた人への物語」と述べていますが、さりげない日常の貴重さに気づくことができるのも「年の功」でしょうか。

2015/7