りぼんの読書ノート

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神様2011(川上弘美)

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1993年に書かれた著者のデビュー作『神様』と、福島原発事故を受けてリメイクされた『神様2011』が併録されています。

隣に引っ越してきた律儀なくまと散歩するというできごとを淡々と書き綴って「悪くない一日だった」とする『神様』は、人との距離感を保ちながら生きる喜びを描いた作品ですが、リメイク版ではメッセージが一段と強くなります。「防護服」や「ガイガーカウンター」や「総被爆線量」という言葉を並べつつ、それでも「悪くない一日だった」と締めくくるリメイク版では、「生きることは、どんな時でも大いなるよろこびなのです」との言葉の迫力が増してくるのです。

著者は「静かな怒りが、あの原発事故以来、去りません。むろんこの怒りは、最終的には自分自身に向かってくる怒りです」として、「この怒りを抱いたまま、それでもわたしたちはそれぞれの日常を、たんたんと生きていくし、この生を放り出すことをしたくないのです」と述べていますが、この後書きがなくても著者の思いを強く感じることができる作品です。

ただオリジナル版が「パスカル短編文学新人賞」を獲得した際に、選考委員の井上ひさしさんが「ミューズが宿ったような作品です」と感想を述べたような叙情性は失われています。仕方ありませんね。

2011/12