りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ポリティコン(桐野夏生)

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大正時代に東北の寒村に芸術家たちが創りあげたユートピア「唯腕(イワン)村」は、現代でも「楽園」であり続けているのでしょうか。

「自給自足の理想社会」の理念が、過疎・高齢化・農業破綻・村外協力者の減少という現実に呑み込まれ、共同体の維持が難しくなった村を引き継いだ、創設者の孫トイチが、村に流れ着いた美少女マヤに出あったとき、破局への扉が開きます。

脱北者の手引きをしていた母親が中国で行方不明になり、母親の恋人だったという男とその妻を名乗るスオンに連れられて、何もわからないまま入村したマヤは、まだ高校生。男たちの欲望の犠牲になるだけの存在でしかありません。

物語の前半では、マヤに心惹かれながらも、スオンや、やはり彼女の手引きで入村した外国人女性たちに手をつけ、世代交代を前面に出して、イワン村を「ブランド」として売り出そうとするトイチの行動が中心に描かれます。

でも彼は決して「やり手」ではなく、おどおどしながら状況に巻き込まれていくだけの世間知らずの田舎ものでしかありません。「イワン村ブランド」が虚飾にすぎないように、「理事長」という権威もまた虚飾でしかないのです。やがてトイチは金銭を介して繋がったマヤに対して、金銭のトラブルから卑劣な行為に及ぶのですが・・。

あまり「桐野さんらしさ」を感じない本でした。むしろ、篠田節子さんの仮想儀礼との共通点を多く感じます。あちらのほうが、徹底的に破滅してますけどね。^^;はじめからマヤを前面に出せば、また違う種類の小説になったのではと思いますが・・。

2011/8