桜庭一樹さんが、本署の解説にこんな文章をことを書いています。「ほんとうにあぶない本は、最初の一行でわかる、と思う」「でも、ほんとうに、読んで・・・いいのか?」
確かにキャロルの小説は、そういう「あぶない」作品ばかりなのですが、短編集の本書には、そこまでのインパクトはないように思えるのですが、いかがでしょう?
「熊の口と」宝くじに当って金持ちになった男の願いは、金の気持ちを知るために自分自身がお金になってみることだったのですが・・。人間の貧富に関する運命を神から任されているのが「お金」ということなのですが、理解困難。
「卒業生」32歳の男が、32歳の身体のままで高校生活を繰り返す悪夢を見ます。この夢は覚めるのでしょうか? 試験や宿題の悪夢を見ることはありますけど・・。
「くたびれた天使」トニーという女性の部屋を双眼鏡で覗く男が、トニーと恋人になるのですが、恋人として接するよりも覗きのほうが好きなんです。アニメキャラに萌えても、実際の恋愛が苦手な男性も増えているようですが・・。
「死者に愛されている」心臓の悪い女に「当たり屋」を仕掛けた女性たちが、彼女の餌食になってしまいます。心臓の悪い女は「死神」の化身?
「フローリアン」「病気の子供のために物語を書いていたら子供が死んだ」という身の上話は、はじめから創作だったのでしょうか。では現実に起きているのはどんな物語?
「我が罪の生」ゴードンという大嘘つきがいたという話なのですが、どこまでが嘘でどこからが現実なのか、境界が揺れてきます。花の咲かない季節に花をくわえた馬のイメージが強烈です。
「砂漠の車輪、ぶらんこの月」失明間近の男がカメラを買った目的は、この先自分が見ることが叶わないものを写し撮っておきたいというものでしたが・・。
「いっときの喝」家を訪れたのは、その家に昔住んでいたという女性と弟。語り手は家そのもの。戻れない幸福の日々は悲しいものです。
「黒いカクテル」自分のほかにあと4人、同じ魂を持つ者がいるそうで、5人集まると輝ける人間に変わるというのですが、どうも必ずしも綺麗な色に発光するばかりではないようです。途中まではキャロルらしい、ダーク・ミステリだったのですが・・。
『パニックの手』という短編集と2冊でセットとのこと。悩ましいのですが、読まないわけにはいかないでしょう。
2011/4