りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ライオンのおやつ(小川糸)

若くして余命を告げられた主人公の雫は、レモン島と呼ばれる瀬戸内の島のホスピス「ライオンの家」に引っ越しました。彼女は暖かい場所で、毎日海を見ながら残された日々を過ごしたいと願ったのです。人生最後のひと時を好きなように過ごさせてくれるライオンの家では、ひとつだけ変わった習慣がありました。毎週日曜日の午後3時から「おやつの時間」があり、入居者はもう一度食べたい思い出のおやつをリクエストできるのです。希望するおやつとエピソードを記入して投函された中からくじ引きで決められるのですが、雫はなかなか選べませんでした。

 

「人生の最後に食べたいおやつは何か」という問いに対する答えを考えることは、自分の生涯を振り返ることなのでしょう。タケオじいさんの台湾菓子・豆花も、元喫茶店マスターのカヌレも、百ちゃんのアップルパイも、狩野姉の牡丹餅も、人生で大切にしていたことや大切にしたかったことを象徴していたのです。そして誰の人生も輝いていたということも。雫が最後に選んだミルフィーユは、彼女のどんな思いに結びついていたのでしょう。

 

誰もが最後に通る道であるのに、普段は気にしないようにして生きているということは、自然なことなのでしょう。生存本能は死から目を背けさせるのです。しかし人生の最後にどんなおやつを望めばよいのか、あらかじめ考えておいたほうが良さそうです。2020年の本屋大賞で第2位となった作品です。

 

2023/5