りぼんの読書ノート

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幻想蒸気船(堀川アサコ)

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人気の「幻想シリーズ」第8作の舞台は蒸気船。ここも、「郵便局」や「電氣館(映画館)」や「寝台車」と同様に、亡くなった方々が来世へと旅立つ場所でした。どうもこの業界も競争が激しいようで、天国の花畑や来世からの通信や人生を振り返る映画「走馬灯」の上映などの顧客サービスを競っているのですが、蒸気船のウリは幽霊船の黒船に乗って、幽霊のペリーに会えること。そして黒船が出港する浦島湾の沖合には、やはり現世と来世のはざまにある奇妙島という小島がありました。

 

両親を失ったツムギは、島からの使いから「あなたはその島の跡取りになれる資格がある」と伝えられて驚天動地。若いころに駆け落ちしてきた母親は、島の存在も、自分が島首の末娘であることも、ツムギに隠し通してきたのです。しかもそこは、人間と妖怪が同居していることに加えて、現代日本で唯一鎖国を続けている島でした。ツムギの傍にはいつも赤殿中という子ダヌキがいるのですが、彼女はそれを自分にしか見えない妄想だと思っていたというからノンキなもの。

 

黒船を運行するフェリー会社の事務員となり、試しに島を訪れてみたツムギでしたが、折しも島では開国派と鎖国派に分かれた争いが起こっていたのです。やはり島主の資格がある従兄が開国派であったことから、自然と鎖国派の代表に祭り上げられてしまったツムギに、次々と災難が降りかかるのですが・・。

 

このシリーズは楽しいですね。どの作品でも、普通の若い女性がとんでもない世界のとんでもない事件に巻き込まれていくことがパターン化されているとはいえ、その驚き加減と次第に慣れていく様子がとてもバランスよく自然に思えるのです。輪廻転生帖や海賊船などのガジェットも魅力的です。でもペリーが開国派なのは当然ですよね。

 

2020/11