りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

スタッフロール(深緑野分)

コンピューターグラフィクス全盛の時代となって久しいのですが、特殊効果で映画を一新したのは20世紀後半にピークを迎えた特殊造形技術でした。「2001年宇宙の旅」「エイリアン」「インディ・ジョーンズ」「ブレードランナー」「E.T.」「ゴーストバスターズ」「ターミネーター」などの映画タイトルを並べてみると、アニマトロニクスを含む特殊造形がいかに時代の最先端を切り開いていったのかを理解できます。そして「スターウォーズ」以降のCGを前面に打ち出した映画が、一段と想像力の限界を超えていったのかも。

 

戦後の映画ハリウッドの世界に生きた特殊造形師マチルダと、現代のロンドンで最先端のCGクリエイターとして生きるヴィヴィアンという2人の女性が時を超えて結びつく本書は、映画に情熱を燃やすスタッフたちの葛藤を見事に描き出しました。天才的な造形技術を持ちながらCGの興隆に怯えるマチルダ。偽物と揶揄されながらも仕事への誇りを捨てないヴィヴィアン。彼女たちに共通するものは想像物を創造することの悩みであり、映画スタッフとしての誇りです。もちろん特殊造形とCGとは対立関係にはありません。「想像力は魔法、創造力は科学」であり、「特殊造形は芸術、CGは技術」なのですから。

 

彼女たちの悩みは、夢に手が届きそうで届かないもどかしさだけではありません。マチルダは女性であったせいで映画のエンドロールに名前が載らないことに、ヴィヴィアンはアカデミー賞を逸したことに拘り続けています。著者はヴィヴィアンについて「ほぼ私です」と語っています。作家デビュー後の9年間で、本書を含めて3回も直木賞候補となりながら受賞を逃し続け、自信を失いかけたこともあったとのこと。それでも書くことをやめられない著者の感情は、本書によって昇華されたのでしょうか。素晴らしい作品でしたが、本書のメインテーマと彼女たちの苦悩が嚙み合っていないように思えた点が少々残念でした。

 

2023/3