りぼんの読書ノート

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らんたん(柚木麻子)

著者の母校である恵泉女学園創立者、河井道をモデルにした渾身の作品です。「女性の偉人伝はなかなかエンタメまで降りてこない」と語る著者は、「河井道の生き方があまりに面白くて、ぜひ楽しい小説にしたいと思った」とのこと。本書は、河合道と生涯に渡るシスターフッドの関係を結んだ一色ゆりとの関係を軸にしつつ、彼女と交流があった当時の有名人が数多く登場する大河小説となりました。タイトルは恵泉の卒業生が在校生にランタンを手渡すという伝統から採られています。

 

1877年(明治10年)に伊勢神宮神職の家に生まれた河合道は、父の失職によって函館に移住。札幌でミッション教育を受けた際に新渡戸稲造の知遇を得て19歳で上京し、明治女学院の講師であった津田梅子宅に寄宿。アメリカ留学後には女子英学塾(現津田塾女子大)の講師となり、さらに日本YWCA総幹事職に就任。そして恵泉女学院を設立したのが1929年、河合道52歳の時でした。

 

本書は、その直前に渡辺ゆりにプロポーズした一色乕児の驚きから始まります。ゆりが結婚の条件としてあげたのは、シスターフッドの契りを結んでいる恩師・河合道と3人で同居するというもの。その時代にそんな条件を受け入れた乕児も偉いものですが、生涯続いた2人の女性の関係も魅力的です。著者はその背景に、津田梅子と一緒に女子教育に携わる夢を結婚で諦めた山川捨松の後悔を挿入していますが、一世代の差は大きいですね。道とゆりは、梅子と捨松からランタンを引き継いだということなのでしょう。

 

女学校創設に至る困難や、戦時中の苦難、さらには戦後の活躍までを描き切った物語には、広岡浅子、波多野秋子、山川菊栄平塚らいてう伊藤野枝、神近市子、市川房江、加藤シズエ、村岡花子柳原白蓮石井桃子、星野あい、ベアテ・シロタなど、多くの女性たちも登場。女子教育の発展や女性の権利獲得を目指す目標は一致しているものの、立場や意見が異なる人たちとの議論や協力関係も数多くありました。構想5年、参考文献だけでも100冊を超える労作です。本書もまた次の世代に燈火を繋げていく、ひとつのランタンなのです。

 

2023/3