りぼんの読書ノート

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紅霞後宮物語 第14幕(雪村花菜)

シリーズ最終巻を手に取って驚きました。文庫200ページ程度の分量でしかないのです。これだけで、大きく広がった大河小説を終わらせることなど可能なのでしょうか。もちろん心配は不要です。少々強引な点も見受けられますが、著者は多くの脇役たちの物語にも決着をつけてくれました。今から思うと、波乱万丈の物語は前巻で終了しており、本書は長いエピローグのようなものなのです。わらに多くの物語を展開させることは可能なのでしょうが、著者はこれで十分と判断したのでしょう。

 

小玉を追い落とそうとした仙蛾が自殺してから7年。彼女が遺した帝姫の令月の養育を続けた日々は、そのまま、小玉が文林の皇后に復活するために費やされました。そして再び夫婦となった小玉と文林は円熟した夫婦関係を築いていくのですが、大宸帝国の皇帝として激務を続ける文林には確実に老いの陰が迫っていたのです。そして迎える文林の死。世代はめぐり、すべてが然るべき姿へと変わっていく中で、小玉はどこに向かうのでしょう。

 

寛の帝と、勝手に康に帰国して女王となった梨后による隣国どうしの諍いも、2人が老いていく中で鎮静化していきましたが、2人とも自然死というわけにはいきませんでした。どちらも死んだはずの人物である、寛の後宮から陰謀によって追われた桃と、自ら犯した罪で宸の皇太子の座を失った鳳は、義母と婿という不思議な関係になり、賢明にも庶人としての生を全うしたのでしょう。宸国では小玉に養育された次男の鴻が即位し、後宮も代替わりしていく中で、小玉の信奉者であった真桂は明るく姿を消しましたが、もうひとりの信奉者であり、玲月を弟である馮王の妃に迎えた紅燕には新しい人生が開けたようです。

 

「紅霞=夕焼け」に例えられた後宮は、美しく見えてもあとは暗くなるだけの、人を不幸にする場所だと知り抜いた小玉は、新たに生まれた命に「暁白=あけぼの」と名付けます。壮大な物語にふさわしい幕切れでした。著者はこの物語を書ききったのでしょうが、時折はスピンアウトでも出してくれれば楽しく読ませていただきます。

 

2023/2