りぼんの読書ノート

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小説イタリア・ルネサンス4.再び、ヴェネツィア(塩野七生)

まさか1990年前後に出版された「小説イタリア・ルネサンス3部作」の続編が、30年近くたってから書かれるとは思ってもいませんでした。しかも『ローマ人の物語』以降は歴史ノンフィクションばかり執筆してきた著者の年齢は、80歳を大きく超えているのですから。TV番組でイタリアを語る役割も、既に山崎マリさんに交替して久しいのですし。ただし本書の前半は、これまでもルネサンス期の政治・外交・芸術論が中心であり、後半は既著『レパントの海戦』の焼き直しという感じです。既読感がつきまといますが、仕方ないところでしょう。

 

ただしマルコの私生活面では大きな変化がありました。それは亡き親友アルヴィーゼの遺児で、尼僧院で育てられているリヴィアとの関係。尼僧院で育った少女を外界に出すための一般的な方策は貴族との結婚であり、マルコはそのために彼女を妻に迎える覚悟を決めていたのですが、それ以外の方法もあったのですね。それもリヴィアにとって、亡きオリンピアを永遠の心の妻と定めているマルコと形式的な結婚をするよりも、はるかに良い方法が。

 

政務の要職に復帰したマルコは、敬愛する元首グリッティ亡き後のヴェネティアの舵取りに努めます。芸術家や出版社や学者たちとの関係を深め、ローマやコンスタンティノープルへも再訪を果たせたのは、ヴェネティアを取り巻く政治状況が小康状態であったため。皇帝カルロス亡き後のハプスブルクは、スペインとドイツ・オーストリアに分かれ、スペイン王フェリペ2世はネーデルランド一帯の反乱に苦しめられます。フランスは国内の新旧キリスト教徒の対立を収拾できず、ドイツ諸都市も統一にはほど遠い状態。エリザベス1世が即位したイギリスも、国際的にはまだ力不足だったのです。

 

脅威となったのは、やはりオスマン・トルコでした。スレイマン大帝亡き後に即位したセリムは領土的な欲望を隠そうともせず、キプロスへと軍を進めたのです。その後の進展は『レパントの海戦』の通りですが、ヴェネティアとの利害関係を異にするローマ、スペインとの調整がマルコの中心任務だったということですね。東地中海が「世界の中心」であった最後の時代に、斜陽の共和制都市国家を率いた現実主義者の政治家の物語は、こうして幕を閉じたのです。

 

2022/11