1.火の柱 上中下(ケン・フォレット)
12世紀の内乱時代に大聖堂を建築する『大聖堂』、14世紀の英仏百年戦争とペストの時代を背景とする『大聖堂-果てしなき世界』に続く第3シリーズは、16世紀のエリザベス1世時代の物語でした。イギリス人が最も好む歴史小説の舞台ですね。かつて大聖堂を建築した家系の末裔であるネッドはエリザベスに仕えますが、ライバルのロロはウルトラ・カトリックとして反エリザベス同盟に与します。やがて2人の闘争は国内どころか国家間の陰謀と戦争に結びついていくのですが・・。圧倒的な物語です。
2.ブルースRed(桜木紫乃)
貧民窟で育った少年・博人が釧路の歓楽街の支配者となる『ブルース』の続編は、彼の義理の娘である莉菜の物語。父親の後継者となった莉菜には、生涯をかけた目的がありました。父親の血を引く優秀な青年を後継者として育て上げるため、恐るべきダークヒロインの道を歩む莉菜に、救いの道は開かれるのでしょうか。北の大地に生きる強い女を描き続ける著者のノワール小説には、迫力も哀愁も詰め込まれています。
3.春(アリ・スミス)
イギリスのEU離脱を背景に描かれる「四季四部作」の第3作にあたりますが、前2作との関係は薄いので本書単独でも楽しめる作品です。長年の相棒だった女性脚本家を失った老映画監督と、収容者の処遇に疑問を感じる移民収容施設の女性監督官は、施設に自由に出入りしている伝説の少女フローレンスと出会うのですが・・。本書のテーマは2冊の既刊よりも明快に示されていて、4部作を貫く思想が見えてきたようにも思えます。「余談」である部分までもが丹念に書き込まれた完成度の高い作品と言えるでしょう。
【次点】
【その他今月読んだ本】
・興亡の世界史5.シルクロードと唐帝国(青柳正規編/森安孝夫著)
・不死身の戦艦(ジョン・ジョゼフ・アダムズ/編)
・スイート・ホーム(原田マハ)
・興亡の世界史6.イスラーム帝国のジハード(青柳正規編/小杉泰著)
・つまらない住宅地のすべての家(津村記久子)
・現代生活独習ノート(津村記久子)
・物語フィリピンの歴史(鈴木静夫)
・この地獄の片隅に(ジョン・ジョゼフ・アダムズ/編)
・千葉の歴史(千葉県歴史教育者協議会/編)
・夜の声(スティーヴン・ミルハウザー)
・アポロンと5つの神託 5.太陽の神(リック・リオーダン)
・ぼくはただ、物語を書きたかった。(ラフィク・シャミ)
・時の娘(中村融/編)
2022/8/30