りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

時の娘(中村融/編)

「時間SFはことのほかロマンスとの相性がいい」そうです。しかも『夏への扉ハインライン)』や『たんぽぽ娘(ヤング)』や『マイナス・ゼロ(広瀬正)』を好む日本のSFファンは特に、大過去や大未来を旅したり、歴史改変を試みたりする大仕掛けな物語よりも、「時を超えた愛を成就させる」物語に惹かれる傾向があるとのこと。本書は1960~1970年代にかけて書かれた「時間SF傑作選」です。

 

「チャリティのことづて」ウィリアム・M.リー

1950年に生きる少年と、1700年に生きる少女は、なぜ惹かれ合ったのでしょう。少年から聞いた未来の出来事を口走った少女を魔女裁判から救うために、少年は何ができるのでしょう。派手な仕掛けなどありませんが、幻のように美しい作品です。

 

「むかしをいまに」デーモン・ナイト

愛する妻の死を受け入れられない夫は、時間を遡っていきます。しかしそれはどこで止まるのでしょう。

 

「台詞指導」ジャック・フィニイ

まだ恋を失う哀しみを知らない新人女優が、完璧な別れの場面を演じることができたのはなぜなのでしょう。30年前に引退したバスが深夜の五番街を走ったときに、彼女は愛は永遠ではないと悟ったのです。本書の中で一番好きな作品です。

 

「かえりみれば」ウィルマー・H.シラス

30歳の主婦が15年前の学生時代に戻ってしまうドタバタ劇。過去に戻って人生をやり直すことは、言葉でいうほど簡単ではないようです。1週間で戻れてよかったですね。

 

「時のいたみ」バート・K.ファイラー

夫が突然10年も年を取ってしまったら妻はどう思うのでしょう。しかしそれはその日の午後に起きた悲劇から妻を救うためだったのです。10年間も筋トレを続けてムキムキ男になるという発想には笑ってしまいましたが。

 

「時が新しかったころ」ロバート・F.ヤング

恐竜時代に遡った男は、火星から誘拐されてきたという姉弟と出会います。当時の火星には優れた文明が栄えていたのですね。男は姉弟を守り通して火星に返しますが、その代償として恐竜型のタイムマシンは壊れてしまいました。しかし救いの手は思いもかけないところから届くのです。『たんぽぽ娘』の作者らしくない大仕掛けの作品ですが、時間と空間を超えた純愛という点では共通しています。

 

「時の娘」チャールズ・L.ハーネス

未来を知っている母を嫌っていた娘が、これまでに愛した3人の男とは誰だったのでしょう。そして母と娘とはどういう関係なのでしょう。時間旅行につきもののパラドックスを極限までつきつめた作品です。

 

「出会いのとき巡りきて」C.L.ムーア

悠久の過去からはるか未来までを股にかけて、一組の男女が互いを探し求める物語り。なんとも壮大な「ボーイ・ミーツ・ガール」ストーリーです。

 

「インキーに詫びる」R.M.グリーン・ジュニア

少年期の1931年に起こった飼い犬インキーの死が、青年期の1944年に彼女との別れに結びついてしまいました。そして中年も終わりに差し掛かった1965年に彼は、彼女と再びやり直すために故郷へと向かいます。2人を見守る老人とは誰なのでしょう。過去を変えるのではなく、今から先をよりよく生きるために過去を受け入れる物語でした。

 

2022/8