りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

空中スキップ(ジュディ・バドニッツ)

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原題は「Flying Leap」。訳者の岸本さんが後書きで書いていたように、彼女の作品は「跳ねて飛ぶ」。飛んだ瞬間に着地点がずれてしまい、もう元の地点には戻れないのです。

戦争が迫る世界で犬になった男、炎の中に飛び込んでいくチアガールたち、突然子供が生まれなくなった世界、礼儀正しく建物から飛び降りる女たち、統計上で「最も平均的な人間」とされて、あちこちから引っ張りだこの男、パンを捏ねるようにして産まれてくる赤ちゃん、母親に貸した心臓の行方、一冊のファッションブックから展開される凄まじい世界・・。

虚と実が、縦横無尽に飛び跳ねます。まじめな顔で淡々と語られていた話が、突然、悪い冗談になってしまう。たった数秒目をつむって、目を開けたら、周りの景色が変わっている。母のスカートの裾をつまんでいたのに、振り向いたのは知らないオバサン。「バドニッツ体験」は、こんなイメージ。物語は変身を続け、どこまでも飛び跳ねていきます。テーマは変わり続け、読者は自分が囚われていた常識から解放されます。

もうひとつ、訳者の岸本さんの言葉を紹介します。この本を読むということは、「ラジオのつまみを回して飛び込んでくるいろいろな周波数の電波に耳を傾けるような」体験をすることであり、「見知らぬ遊園地の乗り物に次から次に乗せられるような」こと。私もまた、そのような体験をすることができました。 作者は、全米図書協会による「35歳以下の注目作家」のひとりだそうです。

2007/5