りぼんの読書ノート

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空白の叫び(貫井徳郎)

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少年法改正による「厳罰化」の流れは止まりません。2000年11月に、刑事罰適用年齢が14歳に引き下げられたのに続き、現在はそれを12歳まで引き下げようとの「改正案」が審議されています。

少年法改正前に書かれた本書には、14歳の中学生殺人犯が3人登場します。久藤は平均的な家庭で育った凡庸な少年。葛城は裕福な家庭に育った頭脳明晰な美貌の少年。神原は実の親から養育放棄されて叔母と暮らす、貧しい少年。一見したところ共通点がないのは、どのような少年にも凶悪犯罪を犯す可能性があるといいたいのでしょうか。

本書は三部からなります。3人がそれぞれ殺人を犯すまでの第一部と、彼らが少年院で出会う第二部と、
出院後に再会して、再び犯罪に手を染めるに至る第三部。少年院での陰湿なイジメと暴力の実態も、出院後に近親者からも社会からも白い眼で見られて行き場をなくしていく様子も、相当に力が入っていますが、一番興味深かったのは、彼らが殺人に至るまでの第一部ですね。

普通の少年の心の空白部分に宿り、育っていく、黒い瘴気。彼らの心が徐々に瘴気に支配されていき、沸騰点に達して殺人に至る過程の克明な描写に説得力があるのです。もちろんどれも、殺人という大罪には
見合わない身勝手な理由ですが、本人にとっては、大切な何かをを守るため・・という、歪んだ思いが伝わってくるのです。(だから、怖いのですが。)

「共通項のない3人」と書きましたが、そうではありませんでした。3人とも「他者に無関心」でありながら、「自分と他者との関わり」には過敏なのです。そういう特徴も込みで、彼らが「普通の中学生」であるなら現実は一層怖いということになるのですが・・。

2007/5