りぼんの読書ノート

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算法少女(遠藤寛子)

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『算法少女』とは、江戸時代に刊行された実在の本のタイトルです。算法を学ぶ少女が父親とともに著したという和算書に触発された著者が、わかる限りの史実を拾い集めながら、こんな物語を作り上げました。

主人公は13歳の町娘あき。町医者で算法を趣味としている父親から手ほどきを受けていて、既に相当の難題もこなせるようになっていますが、彼女の楽しみは寺子屋でもっと幼い子供たちに、算法を教えることでした。

あきの噂を聞きつけた算法好きの久留米藩主・有馬侯は、彼女を姫君の算法指南役に取り立てようとするのですが、異なる流派の実力者である家臣が、それに反対。自分の流派で学んでいる、同じ年頃の娘と競わせることを画策します。

どっちが勝ったのかは問題ではありません。あきはこの経験を通じて、いくつもの流派のそれぞれが「秘伝」と称して他の流派との交流も切磋琢磨もしていない、当時の算法の世界の限界を垣間見てしまったのです。そして子供たちが生活の中で、初歩の算法を役立てることができるよう、教えることに喜びを見出していくのです。

30年以上も前に「少年少女向け」として書かれた本の復刊ですが、当時世界でも最先端をいっていた和算の凄さだけでなく、それがなぜ蘭学におされて衰退していくことになってしまったのかという、深いテーマも、さりげなく伝わってきました。

2007/4