りぼんの読書ノート

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石の葬式(パノス・カルネジス)

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ギリシャの貧しい片田舎の村を舞台にした、連作短編集です。郡都からバスで5時間もかかる、中央政府からも時代からも取り残された、谷間の村に住んでいる村人たちの物語。物語の中で、軍事政権に追放された国王が通りかかっていますから、1960年代なのでしょう。でも、ディオニュソスやカッサンドラなどの古代の神々の名を持つ村人たちの生活は、まるで前世紀のもののよう。

一人の神父を狂言回しとして、にせ医師、傲慢な地主、小心者の駅長、出産で亡くなった妻を愛していたあまり長年の間、娘を虐待していた父親、宿屋を営む乙女心の老婆、ケンタウロスやメドゥーサ(本物?)を見世物にしているサーカス団などが、入れ替わり登場してきます。

みな貧しく、孤独で、偏屈で、理不尽さに耐えて生きています。でもストーリーは、こういう小説にありがちな「善人賛歌」ではなく、時には貪欲で、時には残酷で、完全に意表をついてくれるのです。そして最終章の「アトランティスの伝説」で、村は滅びます。このような「神話的小宇宙」は、現代では生き延びられないのでしょうか。

以前、ギリシャの田舎をドライブして周ったことがあります。山越えの道や、海岸を見下ろす断崖を這う道は険しくて、結構大変でした。エーゲ海の印象とは異なり、ギリシャは山岳国なんですね。幹線道路から離れると、狩の女神・ディアナが、不謹慎な猟師を誘って迷い込ませることができるような深い森も、まだまだ残っていました。本書に登場するような寒村も、まだギリシャのどこかには残っているのかもしれません。

2007/4